舒食男孩(スローフード・ボーイ)|子供の一言から始まった食卓の革命

【舒食男孩|一人の少年の言葉から始まった食卓の革命】

【花東縦谷で見つけた、美味しいベジタリアン・ルーウェイ】

初めて「舒食男孩(スローフード・ボーイ)」に出会ったのは、台湾東部を旅している最中でした。

その時のルートは池上から関山一帯。縦谷に沿って移動し、ちょうどお昼時に差し掛かった頃でした。「油っぽくなく、シンプルだけれど手抜き感のない場所」を探して地図を開いた時、「舒食男孩」という名前が目に飛び込んできました。

当時は深く考えず、「ベジタリアンならさっぱりしていて良さそうだ」と思った程度でした。
しかし、その一回の立ち寄りが、その後何度もこの場所へ戻ってくる理由になるとは想像もしていませんでした。

ルーウェイから始まり、家族の物語へと繋がる

最初は、ここを単なる「ベジタリアンのルーウェイ(台湾風煮込み)店」だと思っていました。

しかし、実はゆっくりと座って食事を楽しめる定食スペースがあることを後で知りました。それ以来、池上や関山を通りかかる際、食事時であれば自然とここへ足が向くようになりました。それは無理に計画したものではなく、ごく自然な選択でした。

そして、再訪を重ね、会話を交わす中で、この店名の裏にある本当の物語を耳にすることになったのです。

「舒食男孩(スローフード・ボーイ)」、その正体は一人の少年

店名にある「男孩(ボーイ)」とは、抽象的なコンセプトではなく、実在する人物のことです。それは、オーナーの鄭瑞雲さんの息子さんでした。

高校生の頃、彼の学校で「ミートレス・デー(肉を食べない日)」の活動が行われました。ある日の放学後、彼は帰宅するなり母親に真剣な面持ちでこう言ったそうです。

「お母さん、一緒に菜食を始めて、地球を救わない?」

この一言が、一家の人生を大きく変える起点となりました。

もともと鄭さん夫妻は、旧暦の1日と15日に菜食を摂る習慣があり、馴染みがないわけではありませんでした。息子の提案に対し、二人は反対するどころか、「子供が挑戦したいと言うのなら、家族みんなでどうなるかやってみよう」と考えたのです。

こうして、一人の少年の提案から、家族全員の食生活の改善が始まりました。

試行錯誤から、「長く続けていける」確信へ

長年の食習慣を変えるのは簡単なことではありませんでした。

しかし、実際に生活を続けていく中で、彼らは変化を感じ始めました。身体が軽くなり、精神的に安定し、食べ物の選択に対してより意識的になったのです。

さらに重要なのは、この食生活が自分たちの身体に良いだけでなく、環境や土地との繋がりをより身近に感じさせてくれることへの気づきでした。

日々の実践の中で、鄭瑞雲さんは確信しました。
「ベジタリアン料理は一時的な試みではなく、一生続けていける道である」と。

肉料理の屋台から、ベジタリアン料理へ

実は、転身する前の鄭瑞雲さんは、肉料理の屋台を営んでいました。

息子の言葉に突き動かされた彼女は、一つの大きな決断を下しました。それは、すべての肉料理を辞め、完全にベジタリアン料理へと切り替えることでした。

もともと料理が大好きで、確かな腕前を持っていた彼女にとって、この転身は自身の料理スタイルを再定義する絶好の機会となりました。家庭で普段作っていた料理を一つずつ調整し、加工食品に頼らず、いかに旬の食材を使って美味しい菜食を作るかという挑戦が始まったのです。

親族や友人の支えもあり、彼女は台東県関山の自宅に「舒食男孩 1号店」をオープンさせました。

家庭料理から、洗練された現在のスタイルへ

1号店は、最も素朴な家庭料理からスタートしました。

決まりきったメニューはなく、季節やその日に手に入る食材に合わせて内容を調整しました。経験を積むにつれ、その料理は次第に精巧な手作りスタイルへと進化していきました。

席数が少なかった1号店は常に満席の状態が続き、やがて池上により広い店舗を構えることを決意しました。それが、現在多くの人に親しまれている「舒食男孩 2号店」です。

しかし、1号店であっても2号店であっても、料理の原点は変わりません。
「安心して食べられ、素材が明確で、食べた後に身体への負担を感じさせないこと」です。

自ら説明し、自ら動くオーナーの姿

お店を訪れるたびに最も印象に残るのは、オーナー夫妻の働く姿です。

どんな食材を使い、どう調理したのかを一皿ずつ丁寧に説明してくれます。オーナーだからといってふんぞり返ることはなく、料理を運び、片付け、接客まで、すべてを自分たちでこなします。

その説明は、単なる宣伝ではありません。
「自分たちが毎日食べているものを、あなたにもお裾分けしたい」という、温かな共有の精神に溢れています。

そうした何気ない会話の中で、この家族の物語が少しずつ客の心に届いていくのです。

子供の記憶に残るのは、「人」

うちの子供は、このルーウェイ店に来るたび、オーナーの妹さんとお喋りするのをとても楽しみにしています。食事が終わってもなかなか帰りたがらず、「また絶対来るね」と言い残し、別れ際には名残惜しそうにハグを交わします。

それはおもちゃがあるからでも、特別なサービスがあるからでもありません。
「ここの人たちは、自分のことを覚えていてくれる」という安心感を、子供ながらに感じ取っているからでしょう。

料理以上に大切なものが、そこにはある

「舒食男孩」は、戦略的に作り込まれたブランドではありません。
一人の子供の真っ直ぐな言葉、そしてそれを受け入れた家族の決断が、長い時間をかけて積み重なってできた場所です。

池上と関山の間で、多くの旅人が何度も足を止める理由。それは、そこにある家族の歩みや世代間の対話、そして何より、素朴で心安らぐ最高のベジタリアンの味に惹きつけられているからに他なりません。

https://www.foodnext.net/life/placemaking/paper/5616962266