花東旅と食のパスポート──民宿オーナーから地域共生へ

花東旅食パスポート:民宿の原点からローカル共創へ――書き続けられる旅と食のレボリューション

花東の青い山並みと太平洋の間には、静かに土地のために力を尽くす人たちがいる。彼らは一冊の「パスポート」で、旅人と地域の物語を結び直しました。
その名も『花東旅食パスポート』。一枚のシンプルなクーポンDMから始まり、十年後のいま、花蓮・台東の約百店舗をつなぐ共創プラットフォームへと育ちました。

一、民宿のゲストから始まった発想

物語の起点は二人の民宿オーナー――花蓮「低調民宿」の楊長愷(アカイ)さんと、玉里「高寮26之2」の屈一民(曲さん)。
アカイさんは情熱家で行動力抜群、曲さんは出版・デザインの出身で、裏方として静かに推進するタイプ。
当初は自分の宿のゲストのために、旅人が地域の食と宿をより深く体験できるように――ただそれだけの想いでした。けれど、その真心はやがて地域文化のムーブメントへと広がっていきます。

第1・2期は簡単なクーポン形式。第3期以降、『花東旅食パスポート』はカバーと特集を備えた雑誌へと発展。
表紙は初期の“スター起用”から、やがて素人や風景写真へ。――それは単なるテイスト変更ではなく、「土地そのものを主役に据える」という方針転換の表れでした。

二、DMから雑誌へ:本気だから長く続く

曲さんは笑ってこう振り返ります。「最初は右も左も分からず、ただ良い店を旅人に紹介したかっただけ。」
創刊当初は自腹で印刷し、一軒一軒、店主のもとへ足を運びました。
アカイさんはラジオやバラエティ界の人脈を活かして、媒体の認知を押し上げる役割を担いました。
しかし歩みを重ねるにつれ、彼らは気づきます――スターは話題性を生むが、ときに地域の本当の輝きを覆い隠してしまう、と。
だからこそチームは「素朴・リアル・生活感」へ回帰。花東の自然と人情に、語らせることにしたのです。

現在は第9期が刊行され、「女性オーナー」をテーマに、花東で根を張る多くの女性起業家のストーリーを紹介。
次号は「独立書店」にフォーカスし、読書の気配を花東の新しい風景へと描き出す予定です。

三、共創の精神:掲載店の厳選から

『花東旅食パスポート』に店が載るのは“誰でもOK”ではありません。
新規掲載は、各エリアのアドバイザーと編集長が実際に食べて、体験してから。Google評価4.5以上がひとつの目安です。
何より大切にするのは「まごころ」と「温度感」。旅人と誠実に向き合う姿勢があるか――露出だけを目的にしていないか。
安定した老舗も素晴らしい一方で、理念に共鳴する新しい小店の参加が、全体の雰囲気を若く、活気あるものにしています。

現在、掲載エリアの最北は花蓮・新城まで(崇徳・和平は未収録)、最南は大武まで。
各地域には「エリア・アドバイザー」が運営を支え、カメラマン、ライター、ローカルのコミュニティ運営者の参加も歓迎しています。
目標は、花東の魅力をもっと多くの人に見てもらい、旅人と地域の共創をつなぐ“あたたかな軸”として刊行物を育てること。

四、これからの道:共創をもっとサステナブルに

アカイさんは言います。「私たちは雑誌に留まりません。お店同士がつながる“プラットフォーム”です。」
今後は「小さな輪プロジェクト」を立ち上げ、商品券やコラボ還元の仕組みで、旅のなかで地域循環を実践できるように。
『花東旅食パスポート』が伝えたいのは――この土地は“見に行く”だけではなく、“歩き入り”、ともに生きる対象だということ。

民宿から出版へ、クーポンからカルチャーマガジンへ。この旅と食のアクションが記録するのは、風景だけではなく人の心。
小さな一冊の紙が、花東でいちばん誠実なローカル・ストーリーを紡いでいます。